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令和8年(2026)9月10日(木)

「おはよう、ビクトリー君。昨日は雨だったから逢えなかったけど、元気にしてたのかい」
「元気だったよ。あほまろこそ、雨ばかりで退屈してたんじゃないの」
「そうなんだよ。雨の日はカメラも濡れるし、ビクトリー君にも逢えないし、朝の楽しみがひとつ減ってしまうんだよね」

 するとビクトリー君、いつものように首を傾げながら、あほまろの顔をじっと見つめておりました。
「それじゃ、あほまろ。今日は久しぶりに、おみくじを引いてみようよ」

「おみくじかい。そういえば、しばらく引いてなかったね。でも、浅草寺のおみくじは『凶』が多いことで有名だからなぁ……」
「大丈夫だよ。今日はきっと良いのが出るよ」
「本当かい。それじゃ、ビクトリー君を信じて引いてみようかな」

 百円を納めて、おみくじの筒を手に取りました。
 ガラガラ、ガラガラ……。
「さて、何番かな」

 出てきた、第九十六番。「大吉」!
「やった! ビクトリー君、大吉だよ!」

「ほらね。ぼくには最初から分かってたんだよ」
 なんとも得意そうな顔をしております。
 浅草寺のおみくじで大吉を引けば、こちらまで少し胸を張りたくなるものですね。昨日は雨で逢えなかった分まで、今日は良いことがありそうな気分になりましたよ。

 ところが、その大吉を眺めて喜んでいると、ビクトリー君がトコトコと近づいてきました。
 そして――、あろうことか、大吉のおみくじの上に、ちょこん。

「こらこら、ビクトリー君。せっかくの大吉の上に乗っちゃ駄目じゃないか。そんなことしたら、バチが当たるよ」
「えっ、そうなの?」
「そうだよ。大吉は踏むものじゃなくて、ありがたくいただくものなの」
 するとビクトリー君、少し反省したような顔をして、
「ごめん、ごめん。もう乗らないよ」
 と、おみくじから降りたのでした。

 もっとも、ビクトリー君にしてみれば、
「この大吉、ぼくが当ててあげたんだから、ちょっとくらい乗ったっていいでしょ」
 そんな気持ちだったのかもしれませんね。

 雨で逢えなかった翌朝、ビクトリー君が勧めてくれた久しぶりのおみくじは、見事な**「第九十六番・大吉」**。

 さてさて、この大吉は、あほまろにどんな幸運を運んでくれるのでしょう。

 でも、考えてみれば――、今朝も元気なビクトリー君に逢えたこと。
 それだけで、あほまろにとっては、もう十分な**「大吉」**だったのかもしれませんね。

「雨上がり 鳩にすすめられ くじを引く 大吉踏んで運まで上向く」(阿呆人也)

 そして、あほまろの周りをいつもの乱舞を舞ってくれましたよ。

。

 おはようピースちゃん。

 ビクトリー君との楽しいおみくじ騒動が一段落したころ、ピースちゃんも姿を見せてくれました。

 そして、その後からハート君もやって来ましたよ。ところが、今朝のハート君は、どういうわけかご機嫌ナナメ。

 いつものように仲良く並んでくれるのかと思っていたら、突然、ビクトリー君めがけて飛びかかっていったのです。

「おいおい、どうしたんだよ!」

 あほまろが驚いている間にも、二羽は翼を大きく広げ、バサバサ、バタバタ。

 つついて、追いかけて、また飛びかかる。

 ハート君も引きませんが、ビクトリー君だって負けてはいません。

「こらこら、朝っぱらから喧嘩なんかするんじゃないよ!」

 そんなあほまろの声など、聞こえているのか、いないのか。戦いはますます激しくなってしまいました。

 それにしても、いったい何が気に食わなかったのでしょうね。

 縄張りの問題なのか、それとも鳩同士にしか分からない昨日からの因縁でもあったのでしょうか。

 人間なら、「ちょっと話し合いましょう」
 となるところですが、鳩の世界に調停委員会はありません。

 気に食わなければ、まず翼。
 それでも駄目なら、くちばし。
 なんとも分かりやすい世界なのでございます。

 しばらく続いた大げんかの結果――、ビクトリー君、ついに敗退。

 さっきまで「大吉」を引き当てたような得意顔をしていたのに、とうとうその場から退散してしまいましたよ。

 ピースちゃんもあきれ顔で見てましたよ。

「あれれ、ビクトリー君。大吉だったはずなのに、どうしたんだい」
 そういえば、さっきあほまろが言ったばかりでしたね。
「せっかくの大吉のおみくじの上に乗ったら、バチが当たるよ」って。
 まさか、本当にその直後にハート君から一喝されるとは……。これぞ大吉を踏んづけた祟りだったのでしょうかね。
 もっとも、観音さまがそんな意地悪をなさるはずはありません。
 きっとハート君が、
「こらビクトリー、大吉だからって調子に乗るな!」
 と、代わりにお灸を据えてくれたのでしょう。
 おみくじは「大吉」。喧嘩は「大凶」。
 これで差し引き、今日の運勢は「吉」くらいになってしまったのかもしれませんね。

 それでもビクトリー君。明日の朝には、そんなことなどすっかり忘れた顔をして、またあほまろの前に現れるのでしょう。
 鳩の喧嘩は派手ですが、恨みまで明日に持ち越さない。そこだけは、人間も少し見習ったほうがよろしいのかもしれませんね。

「大吉を踏んだその足まだ赤い ハートのお灸で運も飛び去る」(阿呆人也)

 ビクトリー君ごめんね。優しいピースちゃんでした。

 早く仲直りをしてくださいね。

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