寄席さんぽ2002年五月下席
さて五下である。これを書いているのがホントはいつであっても五下である。誰が何と行っても五下なのである。こんなことをぐだぐだ言っているうちに世間は七下が終わり、・・あわわ、とにかく五下の幕を開けよう。 二十一日。お江戸日本橋亭定席・トリ南なん、面白そうだが断念。京橋・美学校試写室にて話題の松本大洋原作「ピンポン」の試写、ううむ、これも断念か。ひたすら仕事をして夜十一時帰宅。また楽しからずや、なわけねーか。 二十二日。三太楼トリの鈴本を見物しようと、昼前からテキパキと仕事を片づける。さあやっと終わった午後六時、席を立とうとしたら「緊急デスク会議だよ~ん」と、まったく緊急な感じがしない口調で、S原デスクから召集がかかる。上司の栄転の話。おめでたいことだが、かなり前からあちこちで噂されていた件についての確認で貴重な午後六時台の三十分を使うのはいかがなものか。 ● ▲ ■ ◆ 五月二十二日(水) <鈴本・夜> (金馬:長短) 仲入 仙三郎・仙一・仙三 権太楼:蜘蛛駕籠 喬太郎:肥瓶 正楽:紙切り 主任=三太楼:天狗裁き ● ▲ ■ ◆ あー遅れた遅くなった。湯島の駅から大勝つの横を折れて仲通りへ。まだ妖しいフーゾク光線を発する前の、くれなずむ繁華街を鈴本へと急ぐ。エレベーターで三階まで昇ると、本日の主役であるべき三太楼と弟弟子の太助が、ロビーでうつむきながら内職めいた作業をしているではないか。 「あれ? トリの師匠が何やってんの?」 「権太楼一門会のチケット、仲入で売るんですよ~。こういうのはトリだからできるのね」 客席内から漏れ聞こえてくるのは、金馬の「長短」か。 「金馬師匠のは、気の長い方が大阪弁なんだよね」 「そうそう、あの大阪弁は助六師匠の型だって話ですよ」 立ち話をしているうちに「長短」が終わって、ぞろぞろと客が出てきた。三太楼の営業の邪魔をしないように、客と入れ違いに場内に入った。 鈴本では定位置の、下手の端っこ四列目に陣取って、仙三郎社中の曲芸を見る。まずは仙一の傘の芸、お次は仙三の五階茶碗。こないだの新宿と逆だな。 仙三の五階茶碗は、後半に面白い趣向があった。積み上げた茶碗を片づける途中、間だの板を扇子ではじき飛ばすのだ。「題して仙三スペシャル~」。見事成功して喝采を受けたが、このあとバチ、笠の取り分けで落としまくり。まだ不安定なんだよね。頑張って~。 「ほどは八割。(客席を見渡して)あのね、八割の次にいいとされているのは三割弱・・・」 いつものマクラも、三割弱では盛り上がらぬが、こういう「逆境」(とまでは酷くないが)のときの権太楼はすごいぞー。「蜘蛛駕籠」、初めて聴いたが、笑いのパワーがものすごい。通りがかりの酔っぱらいが、駕籠屋に何度も同じ話をするくだりが最大の山場だ。 「(さんざ飲み食いの話をしたあと)後で食べてねって、おいなりさんをもらったんだよ。ひい、ふう、みい(と、いなり寿司を数えて)ハーックション! (鼻水だらけの折りを差し出し)おめえにやるからよ、食え!」 「やです!きたないです!」 これを権太楼独特のオーバーアクションで二度、三度くりかえすものだから、場内は爆笑の渦。「蜘蛛駕籠」というより、これは大阪の「住吉駕籠」といってもいいのではないか。「蜘蛛駕籠」のサゲもやらないしね。とにかく、権太楼の寄席ネタ中、一、二を争う強力ネタに間違いない。 これだけ場内をかき回されては、さすがの喬太郎もやりにくそう。得意の楽屋落ち的クスグリも我慢して(?)たんたんと「肥瓶」を演じる。テンションが低い分、喬太郎が古典を演じるときに時折鼻につく「わけしり口調」が顔を出さず、すっきりと仕上がった。 「あれもこれも断ってるんじゃ、もう何にもねえぞ。じゃ、おまんま食べてけ」 「おかずは何ですか?」 「このやろう、おかずなんか聞いてやら。何にもねえから、焼き海苔だよ」 「(ちょっと考えて)・・・兄貴の家ってのは、焼き海苔、水にさらしますか?」 いい間だったなあ。 ヒザの正楽も淡々と注文をこなす。「横綱」、「喜撰法師」、「五月雨」に「三社祭」。こういうときに「ドラえもん」って、言いにくいよね。 「待ってました!」の声に迎えられ、丁寧に挨拶する三太楼の短髪がやけに白い。きけば元々かなりの若白髪で、今までせっせと染めてたそうな。そういわれてみると、かなり白いが、「爺クサイ」という感じはあまりせず、むしろ噺家っぽさが増した。 「噺家の見る夢は同じです。高座をしくじった夢。談志師匠は、途中が迷路みたいになっていて、どこまでいっても高座に上がれないという夢をみるそうな。志ん朝師匠は、噺の途中、頭の中が真っ白になっちゃう夢。円蔵師匠」は、何やってもシーンとしちゃって、まったくウケないんですって。出番前の楽屋で、足袋の小ハゼがとまらない、なんてのもあるそうです。アタシは、五回ぐらい同じ夢を見ました。鈴本で落語やってて、そこそこウケてるのに、勘どころじゃないところでワーッとわくんですよ。何だろうって気配を探ると、師匠の権太楼が後ろでもって、『イヨッ』『ハッ』と踊ってる!『師匠どうしたんですか?』って言っても気づいてくれない。そのうちアタシがキレちゃって、『いい加減にしろ、ふざけんなコノヤロー!』って怒鳴りながら、ボロボロ泣いて目が覚めるというスサマジイ夢・・・。こないだ精神科の先生に聞いたら、『高座の夢というのは、一生懸命やろうってことで、そこそこ自信がある時にみる夢なんですよ。師匠が出てくる? あ、それあ(師匠に)早くどっかへ行けっていうこと』だって」 近ごろ出色のマクラである。 「この芝居は(権太楼のネタを)いろいろやりますので、聞き比べてください」といいながら、「天狗裁き」へ。大声を上げず、くどい演出もなく、じっくりゆっくり。淡々と語りながら、一拍置いて「・・・で、どんな夢見たの?」。いいなあ、このネタ。三太楼の「引く芸」に合っている。「天狗裁き」というと、さん喬のくささ、権太楼の押しの強さを思い浮かべてしまうが、どちらにも似ていない、独自の芸になっている。もう十分、持ちネタになっているのではないか。 気になった点を一つだけ。主人公夫婦が「所帯持って三十年だよ~」なんて言い合っているのだが、これには違和感がある。もうちょっと若い夫婦の方が、夫婦げんかがよりリアルになると思うが。 ハネてから、アブアブ横の路地を入った「れんこん」で、れんこんの天ぷらを食った。民家風の外観に重厚感があるが、中の雰囲気も料理も、ほどよく軽い店だった。 ● ▲ ■ ◆ 五月二十六日(日) <権太楼日曜朝のおさらい会> 権太楼:前説 仲入 さん太:桃太郎 権太楼:天狗裁き・宿屋の仇討 ● ▲ ■ ◆ 日曜の朝に早起きするのは月に一度、権太楼のおさらい会がある日だけだ。朝十一時半の開演だから、そんなに急いで行く必要はないのだが、回を追うごとに一番乗りの時間が早まって、今じゃ八時台の前半なんてことになってるらしいのだ。開演時間に行って「立ち見です」と言われて怒るようではトーシロだよなあと思いつつ、十時半に行ったら「立ち見です」だと。 なにーーーーーーーーーーーーーーーーー! ロビーで呆然とするワタシ。本日は十時半に客を入れ始めたのだが、その時点でもう定員を上回っちゃったのだそーな。権太楼インフレとでもいうのでしょうか。一番乗りを目指す過激派の皆様、いいかげんにしましょうね。 とにかく開演のはるか前から客席は立ち見状態なのだから、何もしないわけには行かないと思ったのだろう。十一時過ぎには権太楼が上がって、いいわけ&前説(?)を。小さん師匠の葬儀に来なかった某大物に対するあれやこれや、権太楼節は快調である。 「どうせ師匠に(高座で)叱られるのだから、さーっと七、八分で」なんて言いながら高座に上がった前座のさん太。案の定、「桃太郎」を演じた後は、師匠・権太楼の公開稽古の生け贄になった。 「えー、さん太」 「はい(と、高座に戻ってくる)」 「面白くないのは、じぶんが面白がってないからだ」 以下、延々と責められ、ひたすら頭を下げるさん太。この会の風物詩と言ったら、前座諸君は怒るだろうか?などと思っているうちに、権太楼のハナシが逸れだした。 「天狗裁きや桃太郎は、もともと大阪ネタ。大阪の噺ってのは、漫才なんです。ギャグの連続の中で、お客が(この後の展開を)悟っていく。隠すのではなく、悟らせるようにやるんです。で、お客はわかっているけど、笑ってしまうの。『桃太郎』という噺は、(息子の蘊蓄を聞く)オヤジが客を代弁している。客が『あー、(うちと)おんなじ』と思う、そこに枝雀師匠の言う『緊張と緩和』があるんです。 「『桃太郎』は三十年前に一度捨てられた時代があった。今は『野ざらし』。なんでかわかんないけど、昔ほどうけなくなった。昭和三十年代後半から四十年代後半は、ガンガンうけた。柳好、小ゑんの談志、志ん朝師匠なんかですね。この噺は腕がないとうけない。うけるだろうと思ってやると、うけない。だから、焦る。一人キチガイが、みじめになっちゃう。『カランコロンカランコロンカランコロン、(頭のてっぺんから声を出して)コンバンワ~』とやりながら『おれ、何やってんだろ?』と思っちゃうの。三太楼が今『野ざらし』やってるけど、まだまだです。しくじったときは、『ああ、あれか』と思ってください」 トリネタ「宿屋の仇討」は、権太楼得意のネタ。なんで「おさらい」するのだろうか。 「『宿屋の仇討』はねえ、トリではできないんですよ。時間が足りないし、途中でダレるとこがある。ビギナー客は『まだやってるの?』と思ってしまうんです」 なるほどー。しかし、本題は、イイ出来なんだよなあ。 「ぱーっとやるんだから、寝てねえんだから!」 「こちとら江戸っ子なんだ。勘定なんかは・・・、安きゃ安いだけいいんだ」 「隣のお客さん(指二本だして)これなんです」「なんだ?カニか?」 バカでオッチョコチョイで見えっ張りで裏表のない、河岸の若い衆三人組の浮かれ気分が全編を貫き、実に気持ちのよい噺になっているのだ。しかし疲れるなこの会は。 終演後、木戸の前でたむろしている連中とわらわらわらわら「茶館」へ。小さんのウーロン茶がボトルキープしてあった中華屋さんだ。メンバーに一人見慣れない異国の人がいると思ったら、これがトルコからの留学生で日本語ベランベラン。落語に興味をもっているらしく、さん喬、権太楼の噺に感心している。ううむ、世界の中の落語とは何か? そんなことをい考えている暇はない。今日は池袋のハシゴをするのであった。慌てて演芸場へ戻ると、番組はすでに始まっていた。あったりまえだよね、餃子食いながら長話してるんだから。 ● ▲ ■ ◆ 五月二十六日(日) <池袋・昼席> 紫文 時蔵:ぜんざい公社(藤兵衛代演) 小里ん:夏泥(一朝代演) 仲入 小ゑん:すておく 雲助:千早ふる ぺぺ桜井(勝之助代演) 主任=喜多八:ねずみ ● ▲ ■ ◆ 高座は、「じぞう、じゃありません、ときぞうです。上は中村じゃありません」の林家時蔵だ。 比較的よくやっている「ぜんざい公社」だが、笑えない。もともと地味だし、押しの弱い芸なのだが、あの狭い池袋で、声が聞き取りにくいほど小さいというのはまずいと思うのだが、最前列のにいさんだけ、やたらめったら笑っている。笑わないほとんどの客と、バカ笑いの一人。異様な客席風景である。 小里んの「夏泥」も地味には違いないが、鍛えられた声は低くともよく通り、そこそこの笑いをとっている。 「この長屋は、車力とか土方とか相撲くずれとか、すごいのがすんでいるんだぜ」 「(びびって思い切り声を潜め)とにかく金を出せ」 もの凄いやりとりだなあ。と、あらら、最前列のにいさん、今度はちっとも笑わないぞ。ひょっとして、新作ファンなのか? 短い仲入(池袋はほんとに短い。煙草一本分ぐらいしかないのね)をはさんで、小ゑんの新作「すておく」。三角形の細長い家に住む鏑木一家の、面白うてやがて悲しきお話だ。「収納のためなら命もいらない」というモーレツ主婦が台所の羽目板の下から次々と不用品を見つけるくだりが楽しい。ロゼット洗顔パスタ、ウテナ男性用クリーム、中山式ナントカ器・・・。いらないけど、懐かしいな。 雲助の「千早」は、これ、演者の方が楽しんでいるみたい。 「うちの娘がヘンな遊びをしてるんっすよ」 「桃色遊戯か?」 「百人一首の中にいい男がいるでしょ?」 「だれだ?」 「ほら、浅草から東武電車に乗るんですよ。次の駅なんですけど」 「業平か」 後半は、滑稽ばなしが、芝居ばなしのように聞こえてくる。セリフまわしは歌舞伎のようだし、ラストには浪花節まで入るのだが、演じる雲助の気持ちよさそうなこと。ううむ。 ヒザは「ギター漫談、アタシと堺すすむしかいないんですよ。だからどうしたと言われると困りますが」のペペ桜井。行き当たりばったりの漫談をどう感じるかで評価が別れそうだが、ま、持ち時間の短いならば確実に面白い。 「ちかごろ公衆電話が少なくなったっていうけど、こないだ山梨の方に行ったら、いっぱいあった。公衆電話・・・・(客席の冷ややかな反応にうなだれて)悪かった、悪かった」 「(そでの方を見ながら)今日のお囃子さん、芸大出てるんですよ。かわいいんです。まだ若いし。三十ぐらいかな?こんなとこでやってる子じゃないんですよ」 こんなとこって、ペペさん~。 「池袋、いいですな。(そこそこの入りの客席を見渡し)こんなに入っちゃ、いけません。ほんとの通は、平日の客ですよ。『千早なんか、なんで雲助がやってんだー』『乳房榎とかあるだろー!』という客ね」と、トリの喜多八が威勢がいい。 いつもはヤル気のなさそうな、だらだらの出なのだが、池袋だとフツーだね。ま、マニア度が高いので、「虚弱体質のフリ」は通じないもんねえ。 「今日は珍しい噺が聴けますよ。運がいいですな。災難とも言いますが。マクラなんか、さっき楽屋で雲助師匠に『ここ、どうやるんです』って聞いたのをそのままやるんですから。ええ、昔は楽屋に『甚五郎おことわり』という張り紙が出るほど左甚五郎物が流行ったんですな」 「ねずみ」だった。しかし、ネタおろしとはいえ、「ねずみ」自体は珍しい噺ではないだろうと思いつつ聞いていたら、随所に喜多八ならではの演出が顔を出す。 甚五郎が仙台宿で迷ってしまい、「とらや」に入ろうとすると、番頭が人相風体をなめるように見て「いっぱいです」と断る。で、親切な「大黒屋」に「ねずみや」へ連れてきてもらう。 動く「木彫りのねずみ」をみて、「はんりま!」と仰天した客は、普通は「このねずみを見た者は、近在の者でも一泊しなければならない」という注意書きの指示に従うのだが、喜多八のは「名人甚五郎先生の福ねずみ見たんだから、泊まっていって福を授かるべえ」と自主的に「ねずみや」に宿泊する。 「とらや」に虎を彫るライバルの名が「鎌形彫右衛門」、通称「ホリカマ」で、「ふんっ、なにさ、あんなヤツ。アタシの方が上よっ!」とオネエ言葉でしゃべる。 甚五郎の正体が顕れるくだりも独特で、 「あなた、お人が悪い、甚五郎先生じゃないですか」 「あー、気がついた?そう、アタシが名人の甚五郎」 「あなた、変わってますねー」 などなど、工夫にあふれた「ねずみ」だったが、全体を聞いた印象は、「うーむ」と首をひねるようなものだった。ディテールは面白いが、名人物語特有の気品のようなものが、あまり感じられない。甚五郎は変人でもいいが、名人なのである。喜多八のを聴いていると、単なるヘンなオジサンなのである。甚五郎物を聴いたという、満足感のようなものがないというのは、「壺算」のクスグリだな。 てなことを考えながら、終演後、東武デパートの上の「グリル満天星」でメンチカツ。ここの洋食は人気が高いが、僕はもうちょっと庶民的な味が好きだ。だって、どんなにエーカッコしても、メンチカツなんだもん。 ● ▲ ■ ◆ 五月二十八日(火) <富山笑本舗>(文京シビック小ホール) 前説 米二郎:たらちね 東京ボーイズ さん生:松山鏡 仲入 三人:麦屋節 対談:三人&梅津栄 三人&高砂染次郎社中:かっぽれ・麦屋節 富山名産抽選会 ● ▲ ■ ◆ 東京ボーイズの仲八郎が、同郷のさん生、米二郎をさそっての、「富山テイスト演芸会」。踊り、トーク、抽選会と盛りだくさんな内容だが、なんだか近所の敬老会にまぎれこんだようなチープ感が漂う。本人たちがマジメに取り組み過ぎているせいか、遊び心が弾まないのである。メンツは楽しいのだから、番組構成にもう一工夫を。富山出身ゲストの梅津栄(黒部進の代演!)の怪人ぶり、東京ボーイズ・六さんの意外に達者な踊りが印象に残った。お初の米二郎は、「貧乏時代の三遊亭竜楽」といった風情だ(なんのこっちゃ)。 ● ▲ ■ ◆ 五月三十日(木) <鈴本・夜席> (歌武蔵:猫の皿) 正楽:鶴の恩返し・ピカチュウ・西郷さん 主任=三太楼:寝床 ● ▲ ■ ◆ 正楽の日曜版の原稿を回収に、七時過ぎに鈴本へ。時間も遅いし、出稿は明日にして、そのまま客席の後ろに居座る。 トリの三太楼は、いつになく歯切れのいい口調。力が入っているみたい。 「今日は千秋楽ですので、気合が入ってます。では『芝浜』を。(わははーと場内大ウケ)粗筋は、さっき師匠の権太楼が言った通りです。文楽は、アタシまだ拝見したことないんで恥ずかしいんですが、この間テレビで玉男さんと住太夫さんを見て感動したんですが、義太夫って体に悪そうな芸ですねー」 「寝床」はたしか、去年の真打昇進披露の初日にやったネタだ。 「げほっ、ぐおっ、ごほっ・・・。何でお前、金ダライ持ってくるの?あたしゃこれからもどそうってワケじゃないんだから」 「金物屋さんはおかみさんが臨月?あれ?この前の会の時も生まれてなかった・ま、いいんだけど。子宝だから」 「(みんな来れなくて、じゃお前はと聞かれた繁蔵)ここまでうまくいったのにー。みんなの期待を背負ってきたのにー(と泣きながら)わかりましたっ!ワタシだって男ですからねー、おっかさーん、先ゆく不孝をお許しくださいー!」 「えっ、節がつくだけ情けない?よく言いました。人間捨て身になると言えるもんだな」 「行きなさい、行きなさい。もうお前と一緒の空気を吸うの、ヤダ。行きなさい・・・、なんで行くんだ、お前は!もう(義太夫を)やるんだ!やる気になってんだから朝までやる!」 「そうか定吉、悲しかったか。・・・明日から番頭にしてやるぞ」 特に声を張り上げるわけではない、ふつーの会話の果てに切れていく主人と、繁蔵。一拍置いた後の、絶妙のリアクションが、三太楼流「引く芸」の醍醐味なのだと思う。 ● ▲ ■ ◆ 五月三十一日(金) <竜楽独演会>(日本橋亭) 竜楽:居候 全楽:持参金 竜楽:あくび指南 仲入 仙太・仙次 竜楽:堪忍袋 ● ▲ ■ ◆ 毎月のように開かれる竜楽の独演会だが、見るのは今年初めて。あまりしょっちゅうやってると、ありがたみがないな。今回行く気になったのは、昨日米二郎を見て思い出したのではなく、六月に竜楽が「四十二歳、初婚、向島の料亭で」結婚式をすることになり、僕も招待を受けたので、結婚を機にどう芸が変わるのかを検証しに来たのであった。 しかし、日本橋亭は超満員。毎月やってるのに、これだけ客を集めるっつーのは立派なものだ。 真打昇進後、初めてみる全楽は、安定感のある高座。「持参金」は口慣れていないのか、何度かセリフをかむ場面もあったが、一種開き直ったような口調が噺の雰囲気にぴたりとあっている。 「ええ、談志のところをクビになって、途方に暮れました。大学出てすぐにこの道に入ったし、まして国士舘(ぎゃははと笑われ)やっぱりオカシイですかぁ?_みなさんが持ってる国士舘のイメージがわかりましたよ」 優等性的な円楽党の面々にはない、「全楽節」を持っているのが強みだろう。 大ネタでアピールする場面が目立つ竜楽だが、今日は寄席サイズのネタを三席そろえ、ふつーの落語でも、かなりの力量をしめした。 「あくび指南」は無難な出来。若い衆が脱線するくだり、「ツーッと吉原へ行くと(ここで声とペースを落として)いるんだよ、なじみの女が」とやっているが、ここはハイテンションで一気に行かないと「つい調子に乗って」という気分が出ない。ペースを落とすと、そこで我に帰ってしまうのではないだろうか? 笑福亭鶴瓶の直伝という「堪忍袋」は、もう完全に竜楽のものになった。ねちねちねちねちねちねち続く、夫婦げんかのセコさシツコサが爆笑を呼ぶ。本人は大ネタにご執心だが、こういう十八番ネタがあってもいいじゃないか。 向島の一番大きな料亭で、芸者をあげて、という、今時珍しい披露宴が楽しみだ。
つづく
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