寄席さんぽ2002年四月下席

 ここのところ、なんだか体調がよろしくない。脱力感が抜けないし、首や肩も痛い。疲れが溜まっているのだろうか? 柄にもなくちゃんと仕事をしているせいだろうか?こういう時は、落語をきいていても身に入らない。他のことを考えたり、うとうとしたり。それならとっとと帰ってうどん食って寝ちゃえばいいのだけれど、気がつくと、ふらふら寄席の前まで来てしまうのだ。いったい何が僕を引きつけるのか、そんなことを考えるのもおっくうで、定位置である前方下手の席に身を沈めながら、うつらうつらと高座をながめている秋の昼下がりあった。あ、違った、春の夕暮れなのである。
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四月二十二日(月)
 <鈴本・夜席>
 さん喬:高砂や 燕路:岸柳島 文朝:手紙無筆 巳也:曲独楽 玉の輔:財前五郎 駿菊:野ざらし 仲入 伊藤夢葉 円太郎:強情灸 三太楼:浮世床 ペペ桜井 主任=白鳥:人喰いの家
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六時ちょい前に入場したら、あらら、さん喬が早上がりである。この人にしては珍しい「高砂や」。「と〜ふ〜」の声が、ガラガラの場内にガランガランと響きわたっている。さん喬は、本日紀伊国屋寄席のトリをとるための、早上がり。いつもより声が大きいのは、夜本番に備えてののための声試しだろうな、きっと。
「手紙無筆」の主役は、よろず知ったかぶりの兄貴分。文朝が、思いっきりもったいぶって、体をそっくり返りらせながらの熱演だ。
「あ、なーんだ。アンタ読めねえんだ。じゃ、いいっす。無筆な兄ぃ、ありがとうございました」
「ちょっとまてー!読んでやろうじゃねえか」
(中略)
「兄ぃねえ、手紙の外側じゃなくて、中の様子を知りたいんですが」
「ナカねえ、そーだなー、オレもごぶさたしてるからなー。花魁なんか変わったんだろうなあ」
「兄ぃ、何いってんですか!」
「いやいや、吉原の話してさ、話がそっちの方にいっちゃえばいいなと思っただけ」
兄ぃ、かわいいじゃん。
「三増巳也です。面倒臭かったら、独楽のみーちゃんと覚えてください」と、このコマ回しのおねえさんは、古風な容貌、もっともらしい口調、脱力系のトークと、なんとも不思議な雰囲気を持っている。
細い竹の先で独楽を回す「弓張りの独楽」。独楽の重みでぶらーん、ぶらーんと竹がしなって、なかなかダイナミックな芸ではないか。でも、口上はとってもヘンなの。
「(竹のしなりを見ながら)けっして折れることがない。我慢強いんだなあ。三日月みたい。(詠嘆調に)日本って風流な国なんだなあ。他にどんな動きができるのかなあ。・・・この芸は、この動きだけなんだよなあー」
“風流な芸”の後は、ハイテク芸? 「タダでもらった」というCD―ROMを独楽の上部に張り付けたのが「IT独楽」。これを竹の輪の上で回したり出し入れしたりするのだ。
「題して『輪抜けの独楽・ITバージョン』。小道具はみんなアナログです〜」
芸も演者も、古いんだか新しいんだか。
ラストは、なんという名前なのだろう。複合合わせ技みたいな、フクザツなコマ回しである。えーとね、まず、ひもで独楽を回して、これをヒョイと手で受けて、キセルの雁首のところで回した後、着物の袖に移して「衣紋流し」。そこまで難しい場面を難なくこなしたのに、最後の最後、自分の手に独楽を戻すところで、高座の床に落としてしまった。お上手なんだか、おヘタなんだか。
「えー、つい五分前まで、前の方の席には人が居なかったんですな。(ぐるっと場内を見回し)こう、まんべんなくモノをまき散らしたように(少ない人数が)座っているっていうのも、珍しいですな」と変なことに感心している駿菊。「野ざらし」は得意ネタのようで、よく高座にかけるばかりではなく、随所にならではの工夫がある。
「お前さん、釣れるかね?」
「いやあ一日こうやってるんですけど、ピクリともきませんねー」
「そりゃあ釣れないかもしんねいねえ」
「なんでですか?」
「そこは昨日の雨で水が溜まった所だからな」
お決まりの「釣り」小噺だが、駿菊はここでもう一押しする。
「そーか、どうりで下に横断歩道があると思った!」
歌だくさんの陽気な芸だが、ちょっと声が荒れているのが気にかかる。体だけは大事にしてください、お互いに。
仲入休憩の後、後半の一番手は、本日のお目当て、伊藤夢葉である。
道具箱(なんて言い方でいいのかな、もちろん奇術道具のだが)の中から、鞭を取り出して、ピシッ、ピシッ!といい音を響かせる。
「鞭はたたくのではなく、振るといい音が出るんですよ。(ピシッともう一振りして)ほらね。この鞭で何をするかというと・・・、あくまでも趣味なんですねー」
今にも何か芸をやりそうで、なかなかやらない。これが夢葉の芸、「無芸」なのである。時々はほんとに何にもやらないことがあるそうだ。
二つ三つ小ネタを見せた後で、チャイナリング、カードマジックと、いつになくオーソドックスな展開だったが、最後のカード当ては、ぐだぐだ言い訳しつつ、客の選んだカードをなかなか当てようとしない。「こいつ、実はほんとに(カードの数字が)わかんないんじゃないの?」と客が思う、そのすれすれのタイミングで正解を出してくる巧さ。見事は見事なんだけど、これ、本当に計算づくなのだろうか?
円太郎の「強情灸」。腕にこんもりと盛った灸をみながら「ほーら、井村屋のあんまん」。まん丸の灸の山が目に浮かぶようだ。「強情灸」は我慢するしぐさだけの噺ではないということを改めて認識させてくれる、切れの良い高座だった。
「浮世床」の冒頭に「無精床」のマクラを持ってきたのは、三太楼。
「蒸しタオルの熱いのをいきなり顔に乗せられて、『アチチチチ、何するんだよ親方!』『すみません、持ってられなかったんです』って、この小噺ね、こんなにバカ力入れてやるこたあないんですけど、好きなもんだからつい・・・」
三太楼らしい、ほのぼの独白である。
ギター漫談のペペ桜井、「こんなことやってんのは、日本ではアタシと堺すすむって『な〜んでか』の人の二人だけなんですよ。だからどうした、って言われると困りますが」。そうか、林家ペーは最近ギター持たないで、グッチのバッグかなんか持ってるもんな。とすると、ペーのはグッチ漫談?
ペペがいつもの「サヨナラ」でゆっくり高座を下りるとたんに、客席から「ぎゃははは」の笑い声が。ペペが可笑しいわけではない。次の出演者の出囃子がクラシックの「白鳥の湖」だからなのだった。ロマンチックないい曲なのだが、いかんせん和楽器、もっと具体的に言うと三味線の糸には合いません(きっぱり)。
高座に現れたのは、いわずと知れた異才、白鳥である。
「(少ない客を見渡して)今日はみなさん、私の家族です。さあ、もっと前にいらっしゃい。それにしても、お囃子のお師匠さんがやりにくそうで・・。『白鳥の湖』って、陰気にひくと、本当に陰気な曲ですからねー」と他人事のような口調なのが、この男らdしいといえばらしいのだが。
「いやあ、今日は早朝寄席かな?ちょうどそのぐらいの人数ですよね?(前の方のにーちゃん、うなづくなー)そうそう、僕が貧乏でセイタカアワダチソウを食った話するでしょ、いつのことですかと聞かれたので、ついこないだって答えたら、『薬草について語ってくれ』なんて話が来ました」
トリネタ「人喰いの家」は、人を食う家の話なのだった、ってそのまんまか。とにかく、腹を空かした貧乏人の親子が紛れ込んだ家には、おいしい料理があったのだが、恐ろしい秘密がありました、というホラー物なのだった。とはいっても白鳥が作った話だから、漫画チックなホラーコメディなんだけどね。
新作だから、詳細なストーリーはしゃべるのはやめよう。途中、池袋西口の「手もみラーメン福しん」のラーメンライス&餃子の正しい食べ方を詳細に描写する名場面(?)などあって、圧巻は、物言う額縁の絵と、貧乏親子との壮絶な戦い! 額縁の絵がしゃべる仕草が、どうみてもシェーにしかみえないのがトホホではあるが、とにかくラストのバトルはものすごい。どのくらいものすごいかというと、高座の座布団を「巨大な舌」に見立てて組んずほぐれつ、最後は後ろの襖を開けて座布団ならぬ巨大な舌をポイッと投げ捨ててしまうのだ。
後ろ幕を左右に開いての斬新な登場となった真打昇進披露の高座も含めて、鈴本の白鳥は油断がならない!伝統と格式のある鈴本の高座で、これほど縦横無尽に転げ回り遊び倒した男がいるだろうか!メンバーの悪い早朝寄席のような客席で聴くにはもったいないことこの上ない。席亭がアタマにきて白鳥をおろす前に是非堪能しましょう、鈴本の白鳥を!
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二十三日、文化庁芸術文化課に、芸術祭審査員の承諾書を送付する。今年から演芸部門の審査をお願いしたいという依頼を受けていて、その返事の締め切りが迫っていたのを忘れてたのである。どういうわけで僕に白羽の矢(?)がたったのか、よくわからないが。長年さまざまな「芸」を見続けて来た諸先輩と侃々諤々なんて出来るのは、僕にとって大変な勉強であり、最近怠っているインプット作業再開のきっかけにもなることだからと引き受けることにした。十月、十一月、審査作業で忙しくなって会社に迷惑をかける場合もあるだろうからと、W辺T雄シャチョー宛の社外活動報告書を作成。そんなものがあるなんて、今まで知らなかったぞー。
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四月二十四日(水)
 <末広亭・夜席> 笑組 小燕枝:権助提灯 志ん五:長短 仙三郎・仙一・仙三 主任=さん喬:抜け雀
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 世間が給料日前である二十四日。歌舞伎座で昼の部を一人で見て、新宿伊勢丹<アジオ>でイタメシなどを食う。今日は休みかって? ふふふ、大人には知らなくてもいいこと、知ってはいけないことがあるのだよ、明智くん。
 夜席も半ばを過ぎ、夜のとばりが木造の壁を伝って染み出してきたように薄暗い末広亭の高座が、一瞬、幻のように輝きをました。
 輝いているのは笑組の二人。芸が光っているのではない、服装がむやみに派手なのである。鮮やかなオレンジのスーツのかずおちゃん、黄色のスーツのゆたかくん。
 「もう明日からアンタと組むのやめて、燕路師匠とやろうかな。小さくて持ち運びに便利だし」
 「・・・・・我々、今のが(二人声をそろえて)精一杯でございます!」
 今日は、ゆたかくんの、かずおちゃん虐めがいつになく激しい。念のためにいっとくと、かずおちゃんというのは、太ってて髪の毛がツンツンしてる方ね。
 「お、いいこと言うねえ。ただ太ってないね、今日は」
 「我々コンビを組んでから、世間様で言うと十七回忌ですよ。でも漫才うまくなんないです。(かずおちゃんを指さして)こいつなんか、楽屋では駐車場って呼ばれてるんですよ。バカの王様で、パーキング」
 「アンタがバカヤローって言ってもだめだよ。そんなの単なる自己紹介でしょ」
 小燕枝の出番の前に、桟敷席に移動。理由はね、久しぶりだから。
 志ん五の「長短」は、短七さんのまゆ毛がピクピク動くのがカワイイ。まゆ毛といったら、男は志ん五、女は小円歌だよね。
 トリのさん喬、マクラはいつものように、末広亭の内部構造の解説だ。
 桟敷でだらしなくくつろぐ僕の方を見て(近眼だから誰がいるかはわからんはずだが)、「桟敷、斜めになってるでしょ。客をいっぱい詰め込めるようになってるんですよ。そうそう、台所の水場のはけ口とおんなじー」。わしらは流しのゴミか。
 「抜け雀」は、恐妻家で思いっ切り人のいい宿屋の主人と、サワヤカなぐらい元気はつらつとした一文無しの客との対比が面白い。
 主「一文無しなら一文無しと、何でハナから言わないんですか!」
 客「言ったら止めたか?」
 主「・・・(思わず首を傾げる)」
 客「ざまみろー」
 客「それから何か、下でパアパア言ってるのは、お前のカミサンか? ひどいモノと一緒になってるな」
 主「・・・アタシもそう思うけど、アンタに言われたくないよ!」
 筋がトントントンと進んで、おやおや今日はあっさりバージョンかと思ったら、一文無しと主人が再会してから、がぜん丁寧になったり。この人の「抜け雀」は、聴くたびに展開が違う。変幻自在というのだろうか、それとも単にまだ固まってないだけなのか、本人には聞きにくいなあ。
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四月二十六日(金)
 <志ん輔の会>(国立)
 いち五:手紙無筆 三之助:初天神 うめ吉:ストトン節・折り込み都々逸・木更津甚句・長崎ぶらぶら節・奴さん(踊り) 志ん輔:茶の湯 仲入 イエス玉川 志ん輔:抜け雀
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国立の志ん輔の会。定席ではないので、ネタだけ書き出しとくかと思ったが、久しぶりに見るゲストのイエス玉川の印象があまりにも強烈だったので、ちょっと書かせてね。
いつもの神父さんの格好で、颯爽かつ怪しげに登場したイエス様は、パラパラと不統一な拍手がお気に召さないようだ。
「芸人を長くやってると、心からの拍手と、荘でない拍手を聞き分けることが出来るようになりまして(客があわててパチパチと拍手をするのを見て)なかなか言いお客さんですねー」
 ふふふ。
 「アタクシ、いろんなところに行きますが、二度と行きたくないのが青森県。います?(二、三人の手が上がって)いるの?(口調が急に丁寧になって) 青森はいいとこです。私の故郷は広島県ですが、晩年は青森に住みたいと思っているのですが、仕事では二度と行きたくない!青森商工会議所に呼ばれて、駅前の第一ホテルでステージですよ。予算の関係で、地元のアンちゃんが司会してくれました。『さあ、ご紹介しましょう、エイズ玉川さんですーー』」
 「志ん輔さんとはよく仕事をしてます。本人はどう思っているか知れませんが、私は兄弟のように思っています。昔はこういう仲間内の仕事でも、黒塗りの車が来たんです。アタシなんか今日、電話一本ですよ。『アニさん、忘れてないでしょうね』忘れるわけないじゃないの、スケジュールガラガラなんだから」
 ここまで話して、イエスの視線が、客席前列で弁当を食べている客のところを泳ぎ、直ぐ後ろで日本酒を飲んでいる客のところで止まった。さあ、イエス得意の客いじりが始まるぞー。
 「前のお客さん、ウンコとクソとどっちがきたないと思いますか?」
 「(いきなり指名されて、口ごもりながら)えっ?あの、ウンコ」
 「あなたは五十%の確率をはずしましたね。クソです。普段使っているのは、耳クソ、鼻くそ、歯くそでしょ?これがウンコだとどーなるか・・。(目の前の客に)どーぞ弁当食べていてください。巨人ファンが、ジャイアンツが負けたら、クソッっていうでしょ?これがウンコだったら、どうですか?あ、どうぞ弁当食べてください。クソばばあって言いますよね。ウンコばばあっていいますかあ?どうぞ弁当召し上がってください」
 面白いけど、きったねー。
「アタシの話は飛びますので、どうぞみなさんの方でまとめてください。そのくらいの能力はあるでしょう?三年前、国立に出ているとき、国文学の先生が楽屋に来て『私はあなたの漫談に感激しました。でも、あなたの漫談、はっきりいってとりとめがないですね』だって。くやしくってね、家に帰っても寝られませんよ。しょうがないから、高校ん時使った国語辞典を引いてみたら『漫談=とりとめのないはなし』。いいんです。ちなみに『とりとめがない=まとまりがない』。いいんです」
ラストは玉川のお家芸、正岡容作「天保水滸伝」を、ほんの一節。満場の喝采を背に引き揚げていった。主役の志ん輔が霞む存在感。当の志ん輔は、トリの高座の前に一言。「もう二度と呼びませんから」。寄席ファンなら、一度はイエス様にいじられませう。
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四月二十七日(土)
 <池袋・昼席>
 小金馬:権助魚 扇橋:化け物使い 和楽社中 円菊:宮戸川 馬風 仲入 口上:こん平・扇橋・円菊・金八・金馬・馬風・円歌 アサダ二世 こん平 円蔵:反対車 金馬:紙入れ 小円歌:チャンチャカチャン・見世物小屋・奴さん(踊り) 主任=金八:棒鱈
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四十日間続く落語協会の真打ち披露口上も最終コーナー。鈴本に行ったきり、途中ちょっとさぼってたので、久々に顔を出した。おおっ、今日のトリは金八せんせいかー。
 披露目の前の腹ごしらえは、ロサ会館の並びのビルの五階に出来たばかりの「銭箱」なる中華屋で。何の美学もない殺風景な店だが、客もスタッフもあちらの人ばかりで、料理もなかなか。ランチはそこそこ安くてメインのおかずの量が多いし、ご飯は食べ放題。これ、育ち盛り(?)の前座、二ツ目の昼飯には絶好な店だと思うが。みんなもう知ってるかな?
 てな感じでゆっくり飯を食ってたらアッという間に二時を過ぎてしまった。
 「噺家というのは呑気な商売ですが、呑気でお金が残るかというと、そういうもんじゃない。ハトロン紙の封筒にチャリン、ぐらいですな。で、噺の稽古に行くときは、昔はしょうゆを持って行ったモノです。下地(醤油)を教わると言って。えー、きょうは金八がたっぷりやりますから」
あいかわらずのどこへ行くかわからない扇橋のマクラ。「金八がたっぷり」って言ってるわりには、扇橋が「化け物使い」をみっちりやってるのね。
和楽社中の最近の呼び物は、和助の「おバチの曲芸」=デビルスティックである。
和助「では二回転行きます!」
和楽「それで終わりかよー」
和助「精一杯です〜」
和楽「もっとやれよー」
虐めを楽しんでるのか、和楽の表情がなんともうれしそうなのだ。
続く円菊、金八について何かしゃべろうとしたようだが、名前が出てこない!
「えーーーーーーーーーーー(ここで思い出した)金八さんですが・・」
しょがねーなー。
馬風はあいかわらずの漫談だが、三平の小噺が、「ショートパンツ」でも「パンツやぶけたよ。またかい?」でもなかったな。
「ほら、お空に子豚が飛んでるよ」
「それがほんとのヘリコブター」
あとのネタは・・・・、ま、いいや。仲入の後は、お楽しみの口上である。下手から、司会のこん平、扇橋、円菊、金八、金馬、馬風に円歌。下手の上の方からデジカメがのぞいている。協会HP担当の三之助に違いない。
扇橋「運不運ってありますね。今日はお天気もいいし、大安吉日だし。金八は今話題の根室なんですよ。鮭はもちろん、イクラもうまい。花咲ガニもありますね」
円菊「えー、今日は凄いですよ。会長、副会長、専務理事が並んで、それからフツーの理事も(こん平と扇橋が苦笑い)。協会の寄り合いだってこんだけ集まらない。初日はお父さんお母さんがイクラを持ってきてくれた。うまかったろ?」
扇橋「うまかったねー」
こん平「雑談コーナーじゃないんだから」
馬風「金八もここまでスムーズに来たワケじゃない。後援会長がムネオ先生で、師匠の金馬のカミサンがミス新潟でマキコと家族ぐるみの付き合い。うまく行くはずがないのが真打ちになれたのは、みんなアタシの力です」
そんなこんなで口上は粛々と進み、途中、馬風のチャチャもなく、円歌の音頭でシャンシャンシャン。頭数がいたわりにはフツーの口上だったなあ。
さて、後半だ。納沙布岬に朝日(夕日か?)が当たっているデザインの後ろ幕を後ろに(変な言い方になったな)こん平がぶつぶつ言っている。
「先ほどの口上で扇橋、円菊が花咲ガニとか、イクラとか言ってたのは、まだ出てないからなんです。あれが催促だということを金八は知らないのかっ!今からでも遅くはない。お父さんお母さんに電話をすれば」
そういうことは楽屋で言ってよー。
続く円蔵は、協会の幹部批判?
「円歌師匠、すごいですねー。一年でやめるって言って、四年やってるんですから。(楽屋に向かって)ヤメロー!」
と、このとき、前列の女性客が「円蔵さん、反対車やって!」と突然のリクエストだ。
「ききたい?」
「うん、それで来たのよ」
「しょうがねえなあ。でもね、あれ疲れるんだよ。スタミナが・・。国立で小さん師匠の代演やってさあ。(いきなり)車屋っ!しょうがねえなあ、眠ってやがって」
と、いつの間にか「反対車」に入った円蔵、「疲れた」を連発しながら、土管を二回も飛ぶサービスぶり。やんやの喝采を受けて、さっそうと・・・・というより肩を落として返っていった。ごくろうさん。
金馬の「紙入れ」で熟睡したみたい。ごめん、ぜんぜん覚えてません。
「あたしなんか今年で二十一年目よー」という小円歌の元気の良い声で目が覚めた。
客「ぜんぜんかわってないよー」
小円歌「ありがとー」
客「おせじだよー」
さてさて、「中の舞」が流れて、新真打ち・金八の登場だ。まずは自己紹介から。
「アタクシは北海道の根室出身で、昭和四十五年の十月・・、あれ?・・・生年月日でつかえるようじゃ、この先もういけません〜。(気を取り直して、座布団をななめに持ち上げて根室の説明に)この座布団が北海道としまして、(扇子を右斜めに置いて)ここが国後。扇子の根元のところがムネオハウスです」
「ムネオ先生ですけどね、真打ち披露のパーティーに出席の返事をいただいてたんですよ。来るか来ないか、せめてムルアカ秘書でもと、みんなで話してたんですが、三月十日がパーティーで、翌日の十一日が証人喚問ですから、来るわけないですよねー」
トリネタの「棒鱈」。酔っぱらいがいろんなことを言う。
「うぃ〜、うちの協会はだめだな。あんなに真打ち作っちゃあ。なんであそこにアイツを使うかってんだ・・」
ひやー、やな酔っぱらい。
軽くて明るい、好感の持てる仕上がりだが、一つだけ文句を言わせてもらおうっと。「棒鱈」というのは、無粋でわけのわかんない田舎侍と、おっちょこちょいの江戸っ子の対比を楽しむ噺である。ところが、金八のは、江戸っ子が弾まない。なるほど若さは出ているが、あれでは地方の農協とはいわないが、青年会議所のリーダークラスが飲んでるみたい。もうちょっと粋な遊び心のようなものを出してほしいなあ。
出色なのは、芸者におだてられて田舎侍が歌うヘンな歌。たいていは「もずの嘴」「十二か月」「琉球」の三曲だが、金八のは三つ目が「カマキリ」なのだ。
両腕を体の前で折ったのが、カマキリの前脚。それで拍子をとりながら「カマキリがカマカマ〜、タマムシがタマタマ〜」とやるのだ。これは彼のオリジナルなのか、奇っ怪さと、ノリの悪さが目立つ怪曲だが、この一曲だけで、田舎侍をもう一段ヘンなオヤジに仕立て上げることに成功している。おもしろいじゃーん。
CS放送「G+」の「読売とれんど」という番組で、「寄席への誘い」というテーマで二十分話をした。放映は五月七日とのことだ。えーそんなのもう放映済みじゃん、世間はW杯で梅雨入りだよーという声がどこからか聞こえてくるような気もするが、それいったい何のこと?今やっと四月が終わったとこじゃ〜んと軽くいなして、さんぽ四下の幕を下ろそう。体調は徐々に戻ってきた。さあ、五月だ五月だ。ほんとだよ。
つづく


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