寄席さんぽ2002二月下席
二十一日「正楽の原稿取り」にかこつけて鈴本の昼席を見る。喜多八の「元犬」タダシローがリアルに犬っぽい柳月三郎髪薄くなったが高音はのびてる白鳥「アジアそば」真打名の候補は「雪舟」「笹団子」「コシヒカリ」「謙信」いっそのこと「三遊亭田中真紀子」にしちゃえなんてのがあったそうな次の正朝「ただいまはお見苦しいものを」といいながら「狸札」へ二十三日新装開店「さの字の会リターンズ」こぎれいな内幸町ホール見ながらアアたしか第ゼロ会は台東区産業文化会館の狭い和室にオトモダチだけよんだささやかな会だったなあと遠い目をする二十四日国立花形演芸会ポカスカジャンが後の出番の爆笑問題を意識しまくり千代子(ふるー)エンジンガンガンで津軽ボサ永ちゃんロック韓国ロックさすがの爆笑もローテンションてな感じで句読点のない毎日を送りつつ気がつけばもう二十五日であった。さあ、これからフツーに書くぞー。 ● ▲ ■ ◆ 二月二十五日(月) <鈴本・夜席> 三太楼:動物園(一九代演) ペペ桜井 禽太夫:手紙無筆 南喬:たいこ腹(権太楼代演) 正楽:ねぶた・弥次さん喜多さん・ひな祭り・ハム太郎 小袁治:雛鍔 喜多八:旅行日記 仲入 柳月三郎 白鳥:キモノのお披露目 正朝:桜鯛 とし松 主任=燕路:抜け雀 ● ▲ ■ ◆ 考えてみたら三太楼の高座を三日連続で聴いている。土曜の「さの字」で「ふぐ鍋」、日曜「花形」が「湯屋番」、そして本日の上野は「動物園」。どれも軽くてまったりとして、そこがまた疲れた体に睡魔を誘って・・・って、入場早々寝てはイカン。 「さて本日開園の珍獣動物園、どのぐらいのにぎわいかというと・・・、ちょうどこのぐらいの」 ぐるりと後ろを振り返ると、ざっと六、七十人の入りか(「定点観測」をやって以来、入場者のカウントが早くなった)。寄席ならしかたないが、動物園の入場者数としてはちょっと苦しいかもー。 大きな体の禽太夫、マクラはダイエットあれこれだ。 「水泳がいいなんて言いいますが、泳いでやせるわけがない。トドをみてごらんなさい。ダイエットなら落語が一番。ウソだと思ったら十日間通ってみてください!」 ううむ。いろんな意味で痩せるかも知れないな。 代演の南喬は開口一番、「権太楼さんが出るはずでしたが、急に体調を崩しまして。なにしろ初めての妊娠なんで、ツワリがひどいらしくて・・」。ううっ、想像してしまった。 骨太な南喬とタイコモチ、どうにも似合わない感じがするが、これがけっこういい味なのだ。 「若旦那がアタシに鍼を打つぅ?雨の降ってるときにはだしで共同便所に入るようなこといっちゃイケマセンヨー」 「夕べの夢見が悪かった。大黒様と二人でラーメン食ってる夢だもんなー。しかも木久蔵ラーメン」 客席の最前列に小さな女の子がいる。静かにお行儀よくみているので、なんの不都合もないが、高座の芸人は気になるのだろう。紙切りの正楽もチラチラと女の子を見ていたが、最後の注文は、その彼女から「ハム太郎!」。一瞬絶句した正楽、「正直言って知りません」と苦笑いするが、「切れない」とは絶対言わない人なのね。 「知らなくても、言われたから切ります。ですから、あれはハム太郎ではないと言わないよーに。(といって切り始め、それでもさっと仕上げて、首を傾げながら)みなさん知っているハム太郎とは、ちょっと違うかもしれません。でも、アタシのハム太郎はこれです。だれがなんといってもこれです」 ちょっと違うかどうか、こちらも皆目分からないが、もらった女の子は満足気だった。 小袁治の軽ーい「雛鍔」の後、喜多八が、立ち食いそばを論じ始めた。 「アタシは立ち食いそば評論家ですよ。もう、都内を網羅してます。立ち食いの店で食うべきモノは、かきあげ天そば。三百五十円から三百八十円で心持ちを豊かにしてくれる。このかき揚げを上からみると、いろいろ入ってるようにみみえますが、ひっくり返すと夢がなくなりますな。カリッなんてもんじゃない。固いから待つ。でも、あんまり待つと、そばがセコイからのびちゃうの。で、アタシがやるのが、かき揚げの二枚重ね。この豊かさがたまらないっすね。ぐちゃぐちゃにかき回して、ががっと食う。あとから来る胸焼けに、すごい幸せを感じます」 これじゃ仲入になんか食う気にはなりませぬ。 白鳥は出てくるなり、キモノの両袖を広げて、「今日、このキモノが出来てきたんです~」。白鳥の名に合わせ、たもとを鳥の翼のようにしたデザインが自慢のようだが、楽屋の反応は「それは白鳥じゃなくて雀!」「ジュディ・オングみたい」「夏になったらシベリアに帰れ!」だったとか。で、その後、故郷の高田商店街の冬越えの話を少しだけしゃべって、「今日はキモノのお披露目でございます」と帰っちゃった。ぼーぜん。 ひざ前は、正朝。 「トリの燕路さんはホープです。ホープホープと呼ばれて二十年。一生そうかもしんない。主任にクチナシ・・。トリとるときだけ先生と呼ぶんですよ、トリトル先生・・・、うそです」 うなだれながら「桜鯛」に入る。ありゃりゃ、正朝も短い高座だな。 お殿様に「鯛のかわりを持て」と言われて、うろたえるお城の台所。 「えーっ!買い置きはないし、すぐ買いに行こうとしてもセブンイレブンはないし」 「お前、セブンイレブンで鯛売ってんのかよ!」 今日の正朝、こんなんばっかし。 とし松をはさんで、ホープ燕路の登場。「待ってました!」「燕路さん!」と上下から声がかかる。 ネタは「抜け雀」。一文無しをとめた宿のおかみさんが実にコワイ。さんざ脅かされた気の弱い亭主がぼやくこと。 「ちきしょー。おどかしゃ済むと思ってんのかよ。ま、おどかしゃ済むんだけど」 この亭主、二階の一文無しにも責められる。 「下でパアパア言ってる女、アレはなんだ? アレも一文無しが置いてったのか?」 それでも一生懸命、かみさんに愛想をいう気弱な亭主が、いかにも人の良さそうな燕路のキャラとかぶさって、情けないとおもいつつ笑ってしまう。ヘナチョコさでは、喬太郎の「竹の水仙」の主人に、劣るとも勝らないではないか。そういう噺だったっけ、これ? 終演後、アブアブの横を入った民家風の居酒屋「れんこん」でレンコンなどをつまむ。・・・・・・何かオヤジギャグを力んだら、思わず体がハスっかいになった。 ● ▲ ■ ◆ 二月二十七日(水) <池袋・昼席> (小駒:持参金) 左橋:壺算 笑組:走れメロス 玉の輔:新聞記事 世之介:平林 南喬:佐野山 仲入 川柳 喬之助:初天神 小菊:梅は咲いたか・鬢のほつれ・都々逸・たぬき 主任=馬生:今戸の狐 ● ▲ ■ ◆ 水曜の昼の二時過ぎ。池袋西口の「松屋」で、およそ二年ぶりに「カレーぎゅう」を食う。一つの皿に、カレーと牛めしが合いのりしている。これをお得と感じるところが、ま、庶民なんだよなー。 「持参金」は、おなべという名の女中が、まるでモノのようにやりとりされるところが、後味が悪い。ところが小駒の噺は、このおなべに優しいのである。おなべを押しつけられた主人公が「(しみじみと顔を見て)なんだ隠居が言うほど悪くねえじゃねーか」といい、最後は「あの女の心意気に惚れました。生涯添い遂げますので」とまで宣言してしまう。小駒独自の解釈だろうか。これなら後味はいいが、これで小駒が面食いだったら怒るよ。 次の左橋は、先代の小駒じゃん。 「買い物は難しいですな。バーゲンに金を持っていくと衝動買いしちゃうから、お金を持たずに言って、目を付けといたのをバーゲンで買おうというつもりが、二つ三つ黙って持ってきたりして」 おいおい。「壺算」は、とんとんと進む語り口はいいが、ちょっとメリハリ不足か。それにしても客が重いなー。 笑組の「走れメロス」は、好きなネタだったりして。 「じゃ聞きますけど、メロスはどこを走るの?」 「青梅街道でしょ」 「どこ行くの?」 「荻窪行くんでしょ、ラーメン食べに」 「じゃ中央線で行けばいいじゃん」 「だめだよ、すぐ故障するから」 「メロスは太宰だよ」 「ダザイでございま~す。お魚くわえたダザイさん」 「どこまで行くんだよ!」 かずおちゃん一人芝居で、山賊とメロスの立ち回り。 「途中挫折しかけたメロスが、胸にぐっとくること言うんだよ」 「しんきんこーそく?」 「じゃねーよ!」 考えさせられるハナシではないか。 世之介は、出てくるなりスズキムネオの物まねを披露。うまい。続けて、ちょっと古いが「そばやで一番安いメニューと同じ名前」の元首相の失敗談へ。 「アメリカで宮沢さんと河野さんと森さんの三人が、コーヒー飲んでたんですよ。宮沢さんが『コーヒー』と注文すると、河野さんが『ミーツー』って言った。そしたら森さんが『ミースリー』」・・・」 「平林」はさしておもしろくない噺だが、世之介は得意にいているようで、いろいろ仕掛けをほどこしている。終盤、「たいらばやしか、ひらりんか~」と小僧が泣きながらあるいていると、当の平林氏とすれ違うのである。で、「忙しいからまた今度ね」と世之介は高座を下りていくのでありました。なんだそりゃ。 南喬「佐野山」は、相撲ネタのマクラがアヤシイ。 「女の相撲があったらなあ・・。二十歳前後の女の子がまわし一つで・・・。アタシ、見に行きます!まわしが弛んできても、水入りなしでトコトンやってもらいたい!」 谷風対佐野山の取り組みを知った贔屓客たちが「谷風のおかみさんと、佐野山がデキたからだろう」と推測するくだりも面白い。 「佐野山が谷風の留守宅にあがり込んでいっぱいやってるところに・・・雨が降ってくるんだよ・・・で、デキたんだよ」 ふふふふ。 仲入を挟んで後半は、出番が入れ替わって、川柳から。 「えー、四十人ぐらいですか。ま、少なくって笑いにくいでしょうが、こっちもやりにくいんですからお互いさまで。これを乗り切ってこそ、日本の未来があるんですよ!池袋は、日本で一番きれいな寄席です。駅から徒歩一分。何やっても儲かるのに、寄席やってくれるんですから。そういえば、新宿も少なかったなあ。(場内を見回して)働き盛りの人が昼間寄席にいる。こういう人は、栄光とか抱えてないよね。だからなかなか笑わないです」 かくいう僕も、名誉も栄光も抱えてないっす。けっこう笑ってるけど。だらだら話はさらに続く。 「寄席にはお年寄りがくるけど、ばーさんは盛り上がるが、じーさんはダメ。」 「酒ってのは、相手に迷惑かけなきゃダメ。気ぃつかって酒飲んでると、志ん朝さんみたいに早死にする」 で、最後は「円楽さんは、アレ睡眠薬だよ。涙腺ゆるむんだよね、もう、感情の垂れ流し」なんていいながら、快楽亭ブラック作(?)の「涙の円楽船」をワンコーラスだ。 いつも聞いてる 前座さえ とうにあきれた ネタなのに 今夜も 藪入り 芝浜 浜野矩随やっている 泣けば喜ぶ お客もバカね 円楽さんの 出る高座
入れ替わりに出てきた喬之助。楽屋の方を見ながら「川柳師匠、バスの時間が・・。バスったって、池袋から雑司ヶ谷まで、帰るだけなんですけどね。急がないと、あと五分しかない」 「こないだここの寄席で、三つ机を使って、右に弁当、中央にパソコン、左に書類をならべて、仕事始めたヤツがいる」(注・・・あとで本人に聞いたら「実話です」だと) 「ここの隣のカラオケ屋さんが、いつも朝礼じゃなくて、夕礼をやってるんですよ。全員で『もうしわけありませんでした』って、五回も繰り返すの。ここはお詫びが多いんだなと申し上げたところで(客席後方に目をやって)、ここはモニターで外にも流れていたんですね・・・」 これでマクラの面白さが本編まで持続すればなーと思っていたら、この日の「初天神」は明るく歯切れがいい。 「おっつぁん、(声を二倍に張り上げて)な・ん・か・か・っ・てー!」 「うるせえな、寝てるお客さんが起きちまうじゃねえか」 ひざ代わり、小菊ねえさんの「鬢の」ほつれは、「稽古屋」で若い衆が習う、あの唄だ。 もしもあたしが うぐいすならば 主のお庭の梅の木に たったひとこと サ、ほ~れましたとさ 続いて都々逸。 ひざまくら させてあたりを みながらそっと 水を含んで 口移し 「こういう文句でシーンとしちゃうと、どうしようかなと思っちゃう」 はいはい、パチパチパチパチ。 トリの馬生は、やくざのマクラ。 「ボンクラ、ピンキリなんてのは、みーんなバクチの言葉なんですな」 「やくざ=893を足すとブタ。つまり役に立たない」 「『あなたがたやくざは』と言ってはいけません。『あたしどもやくざは』と卑下するのはいい」 なーんて話から、「日本橋と京橋の間に、中橋というところがあって、今のブリジストンの辺りですな。ここに初代の三笑亭可楽という人が住んでいた」と、珍しいネタ「今戸の狐」に入る。サゲのための仕込みが長くて眠くなるという話を聞いたことがあるが、その仕込みの部分に地味だが、なんともいえない古風な味があったような・・と思いつつ、真ん中当たりで惰眠をむさぼってしまった。無念。 小菊の淡い色気と、馬生の押さえた口調。仕事をさぼった平日の午後特有の、テンションの低目のうきうき感に、こういう日のメンツがしっくりくるのである。どこがどうと言われても説明しにくい。ま、一緒に仕事さぼって出掛けましょうぜ、ご同輩。とりあえず本日はこれまで。会社帰らなきゃなんないもんねー。
つづく |
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